発達障害

発達障害について

発達障害は、発達障害者支援法において、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義されており、幼少期から「発達特性」として症状が出現する障害のことを指します。特に代表的なものは自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)です(名称はDSM-5に準拠)。

これらに共通するのは、能力の偏りや得意不得意のばらつきといった質的側面で評価されることであり、全般的に知的機能と適応機能が制限される知的能力障害とは区別されます。

ASDについて

以前は自閉性障害、レット障害、小児期崩壊性障害、アスペルガー障害、特定不能の広汎性発達障害(名称はDSM-Ⅳ-TRに準拠)として別々に概念化されていたものを、レット障害を除く多彩な表現型を呈する神経発達症候群としてまとめたものです。典型的には、目を合わせない、指さしをしない、後追いがみられない、あやしても喜ばない、言葉の増えが遅いといった様子が生後1~2年以内に観察されます。

言葉の遅れが目立たなくても、保育所や幼稚園に入ってから、一人遊びが多く集団行動が苦手であったり、頻繁にかんしゃくを起こすことで気付かれる場合もあります。電車やミニカー、ゲームなど、自分の興味のあることには毎日何時間でも熱中し続ける一方、初めてのことや予定を変更されることが苦手で、新しい環境に馴染むのに時間を要します。

知的能力が正常で言語機能障害が軽度の場合は、学業や社会性への要求水準が高くなる青年期やそれ以降まで特定されないことも珍しくありません。芸術や数学などの分野で特殊な能力を発揮される方もいます。

ASDの疫学

一般人口の約1%にみられると推定されています。過去20年の間に診断されることが増えてきていますが、単に認知度の上昇に起因するものかもしれません。個人的には、情報社会がもたらしたスピード感やコミュニケーション様式の変化が背景にあると考えています。

ASDの原因

家族研究や双生児研究によると、ASDには遺伝の要素が大きく寄与しているが、必ずしも全てが遺伝要因で説明できるわけではないとされています。その他、妊娠中の出血や妊娠糖尿病、周産期の臍帯合併症や分娩損傷、胎児切迫仮死、高ビリルビン血症、低出生体重児などが危険因子として考えられています。尚、子育てのスキルは発症とは無関係です。

ASDの診断

日常的な会話のキャッチボールができない、興味を共有しにくい、会話の間に表情の変化や身振りが少ないといった社会的コミュニケーションの障害、他者の感情を察し、行動の動機や意図を理解することが難しいという対人的相互反応の障害、常同的または反復的な動作・行動や物の使用、独特な言い回し、習慣への拘り、柔軟性に欠ける思考様式、過度に限局した興味、感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さなどにより診断されますが、診断がつかなかったからといって本人の苦痛が軽減されるわけではありませんし、治療方針が大きく変わるわけでもありません。診断の有無には拘らず、特性を把握することが大切です。

また、発症は家族の目にはしばしば急速に映ります。クラス替え、中学校や高校への進学をはじめ、コロナ禍における臨時休校が通院のきっかけとなったケースも非常に多いのですが、この場合は経過から適応障害のみの診断で済まされてしまうことがあります。

ASDの治療

幼少期には、個別や小さな集団での療育を受けることによって、対人関係スキルの発達を促し、適応力を伸ばすことが期待されます。家庭や学校では視覚的支援や構造化を用い、「いつどこで何をどうしたらいいか、それはどうなったら終わりで次に何があるのか」という見通しが立てやすくなると、本人は安心して過ごしやすくなり、情緒的にも安定していきます。家族や各関係者が本人の特性を理解し、成功体験を重視しつつ、徐々に特性の理解と改善を促し、結果として本人が自然に弱点をカバーする技術を身につけ、二次障害を予防することが要点になります。

薬物療法はASDの中核的な症状に対してではなく、関連する行動上の症状を改善する目的で行われます。具体的には、易刺激性(攻撃性やかんしゃく、自傷行為も含む)に対して抗精神病薬、反復的な行動に対して抗精神病薬や選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などを使用します。

ADHDについて

不注意や、多動性および衝動性の程度が年齢から期待される発達の水準に不相応で、社会的および学業的、職業的活動に悪影響を及ぼす疾患です。成人までに多動性は消退する傾向にありますが、不注意や衝動性は残ることが多く、時に頭の忙しさや感情コントロールの難しさとして自覚されます。症状の1つ、もしくは併存症として不安もよくみられ、不安が過活動という形で現れることもあります。

ADHDの疫学

学童と青年の5~8%、成人の2.5%にみられると報告されています。学習領域の問題や反社会的行動、物質関連障害(アルコールや薬物)、気分障害を併存しやすく、特に双極性障害との鑑別は困難です。

ADHDの原因

遺伝要因が大きく、両親や同胞がADHDの場合の発症率は、一般人口の2~8倍になります。ドパミンとノルアドレナリンに作用する精神刺激薬がADHDの症状を改善させることから、これらの神経系の機能不全が考えられます。画像研究においても、前頭前皮質や大脳基底核などの容積減少や血流低下が示されています。その他、妊娠中のウイルス感染、飲酒や喫煙、薬物への胎内曝露、低出生体重児としての出生が関与している可能性もあるといわれています。

ADHDの診断

勉強や仕事で不注意な間違いをする、注意を持続させることが難しい、課題や活動を順序立てて行うことが困難で後回しにしがち、なくしものが多い、気が散りやすいといった不注意の症状や、手足をソワソワ動かす、席にじっと座っていられない、しゃべり過ぎて質問が終わる前に出し抜けに答えてしまう、順番を待つことができない、他の人がしていることを邪魔するといった多動性および衝動性の症状のいずれかが、家庭や学校、職場などの2つ以上の異なる状況において存在し、社会的・学業的または職業的機能の障害が生じていることが診断に必要です。

ADHDの治療

心理社会的治療と薬物療法を単独、もしくは組み合わせて行います。心理社会的治療としては、例えば忘れ物がないように次の日学校に持っていく物リストを作って親子一緒に確認する、授業中に様々な刺激を受けにくい席(最前列など)にするという環境調整や、望ましい行動ができたときには褒めるなど、子どもにとって好まれるフィードバックを行い、望ましい行動を強化させていくという行動療法を行います。言葉で褒めるだけでなくトークンエコノミー(ご褒美制度)を併用するとより効果的です。ASD同様、視覚的支援や構造化も大切です。

薬物療法には、精神刺激薬であるコンサータやビバンセ、非精神刺激薬であるストラテラやインチュニブという選択肢があります。この中から症状に合わせて単剤を原則として使用し、必要時のみ2剤併用を検討します。二次的に不安やうつなどの症状がみられる場合には、対症療法としての薬物療法も行います。
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